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裁かれるは善人のみ (2014) [露] アンドレイ・ズビャギンツェフ監督

市長の土地買収に対抗する自動車修理工を描いたドラマ。ハリウッド映画だったら正義の主人公が権力者相手に立ち向かうみたいな恰好良いストーリーになっただろう。しかし、もちろん本作は違う。

権力の象徴である市長は確かに悪徳政治家の見本みたいな人物だが、対立する主人公の修理工も決して正義の味方というほどの人格者ではない。といっても、親友である弁護士を盾に訴訟を起す正攻法で対抗しているから一応まともな市民である。

しかし、この弁護士が意外とくせ者で、主人公の家庭は崩壊、市長の罠にはまり全てを失い、セオリー無視、多くの人の予想を裏切る結末へと繋がっている。さすがにここまで酷いラストとは誰も予想しないだろう。

予想は裏切っても期待は裏切らないというのがストーリー展開のセオリーである。しかし、本作は期待も裏切る。一部の人にとってはもしかしたらこれも期待通りなのかもしれないが。少数派だろう。

悪が勝って終わるストーリーも前例はいくらでもあるが、やはり観ていて納得感がない。しかし、本作の主人公は一種のプロ市民的な自己主張の強いタイプなので、これでもあまり同情する気にはなれない。

警察や裁判所とも裏で繋がっている政治家相手に一市民が反抗したところで勝ち目はないという諦めもあるだろう。だからこのラストでもさほどのがっかり感はなかった。むしろ、肯定的な意味でのリアリティを感じたくらいである。

本作が優れているのは、権力者に立ち向かう一市民の話というだけではない点である。主人公の家庭や周囲の人物たちも丁寧に描写され生きた人間として演出出来ている。地味なストーリーの上に2時間半余りの尺であっても退屈せずに観られる密度の高さは細かいシナリオと演出が優れているからだろう。

単純に映像も良い。冒頭の風景映像だけでも良いなと思ってしまった程である。映像だけでも鑑賞に値すると言っても過言ではない。つまりは映画的な完成度が高い。

最後には正義が勝つみたいな一般的なストーリーを期待している普通の人にとっては苦痛を感じる映画だと思う。しかし、現実もそんなにいつもうまく行くわけではない。本作で表現されている権力の非情さに納得出来ない人は恐らく幸せな人生を歩んで来た人なのだろう。

 

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